暗号学ゴッドファーザー、ブロックチェーン技術の新しい「キラーアプリ」を語る


ビットコインを先駆ける匿名性のあるデジタル通貨「e-cash」を80年代に考案したデイビット・チャウム氏が、Bloomberg Odd Lotsのインタビューで、ブロックチェーン技術のキラーアプリや近未来におけるプライバシー保護機能の重要性を語った。


 
 
術によって社会を改善しようとするサイファーパンクの一人が、「“匿名”で良いはずのオンライン上なのに、決済においては匿名ではない」と以前発言していたが、決済の他にもプライバシー保護が問題となっている日常的なデータのやり取りがあるようだ。

それは、大企業が提供するようなメッセージアプリを通じて行われる「ユーザー同士のチャット」。

少なくとも、デイビッド・チャウム氏はこのように思っているという。

また、80年代から電子通貨を手掛けていた当業界のパイオニアである同氏によると、AIやビッグデータなどの技術革新が著しい昨今のプライバシー問題に対する解決策は、「将来の社会の在り方」に影響すると見ているようだ。
 
 
「メタデータの暗号化」がこれからのトレンド!?
 
これまで当業界ではブロックチェーン技術の様々な使用用途が考案されてきたが、暗号学のゴッドファーザーにとってブロックチェーン技術のユースケースは「明らか」だという。

現代社会における本当のキラーアプリは明らかに決済機能のついた人気メッセージアプリだ…ブロックチェーン技術を実装したWeChatのようなもの…安全にdAppをオフチェーンでの実行可能にする方法と一緒に。

この「ブロックチェーン技術を実装したWeChat」というのは、(チャウム氏によると)チャットアプリのメタデータを暗号化したもの。

最近はテレグラムを始めとするチャットアプリのセールスポイントである「エンドツーエンド暗号化」が一般的となっているが、チャウム氏が推奨する「メタデータの暗号化」は更に高いプライバシー機能をユーザーへ提供する。

それというのも、前者はメッセージの送受信をしている人のみしかその内容を解読できないというものだが、後者は「誰といつ会話しているか」を始めとするソーシャルグラフの暗号化を意味する。

チャウム氏は前述にあったような「デジタル通貨による決済ができるメッセージアプリ」を可能にする「Elixxir (エリクサー)」プロジェクを既に始動しており、今月初旬にはテストネットを公開したという。
 
 
プライバシーを巡る戦いが将来を決める
 
2013年に米国政府が国民の文字通信の内容や電話記録にアクセス出来ることがアメリカ国家安全保障局(NSA)内部告発者エドワード・スノーデン氏によって世間に暴露されたことが、暗号学の世界へ再参入するきっかけになったと語る、チャウム氏。

そんな同氏によると、日々の会話が大企業が管理するサービスを通じて行われるようになった昨今では、多くの人がプライバシーの問題に気付き始めたという。

それでも、世間からの期待が高まっているプライバシー関連の技術は諸刃の剣であり、「デジタル上での独立を守る」ようなものか、または「犯罪者からシステムを守る」という名目の元で社会を支配するためのものとして使われる、と指摘。

特にAIが急速に発展する最近ではプライバシー保護を巡る社会の変わり目の訪れが「差し迫って」おり、これから社会がどちらに転ぶかが「自由な民主主義的」または「全体主義者的」な世界になるかを決めると忠告した。

2つのアプローチの戦いの勝者が自由で民主的な社会か、例えばAIによって組織化されるような全体主義的な社会になるかを決める…このような選択肢が人々にとってより明白で差し迫っていることに、特にAIや大量のデータが水面下で急速に発達している中で人々が気付き始めている。

 
 
ビットコインは「雑で、原始的だ」
 
ビットコインに対しては肯定的でも否定的でもないチャウム氏だが、ビットコインが提供する「検閲不可能性」に関しては少なからず評価しているようだ。

ビットコインのホワイトペーパーに対する「最初の反応はどの様なものだったか」という質問に対して、チャウム氏はビットコインが政府によって使用される「強力なメカニズム」や民主主義に対抗または支持する「決済手段」のように思ったと述べた。

また、ビットコインは技術的に「雑で、原始的だ」と苦笑したものの、同仮想通貨には「はっきりと特徴づける要素」がある述べ、次のように続けた。

暗号学者同士で暗号化されたメッセージを交換することは出来るが、政府が単純にスマートフォンをオフにしたり、(メッセージを交換しているのを)監視できるため、大勢いなければ匿名性を保てない…ビットコインは異なる管轄下の多くの人々が参加し、政府のコントロール外となることを実現した。

しかし、ビットコインの匿名性については一切言及しなかった。

これは、チャウム氏を奮い立たせて暗号学の世界に引き戻させたような暴露をしたプライバシー擁護者のスノーデン氏とは対照的だと言えるだろう。

暗号学のゴッドファーザーが慎み深い発言をする一方で、スノーデン氏は非国家主体のBTCが提供する価値を認めながらも、プライバシー機能の欠如を理由に「将来性はない」と以前から言い切っている。

最近ではビットコインの匿名取引を可能にする「ソフトフォーク」が話題にされているが、規制当局との兼ね合いも踏まえた上で実装されるまでに至るだろうか。

新たな金融インフラを構築しようとしているビットコインに「匿名機能を追加するべきか」という議論は、社会がこれからどの様な道を進むかを示すような重要なサインになるかもしれない。

 
 


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