Holochain代表が語る「世界中の人々が呼応する近未来のエコシステムについて」
- 2018/7/5
- 独占インタビュー
Holochain代表として知られているMatthew Schutte氏に仮想通貨ニュース.comが独占インタビューしました!
誰もがもう一度は聞いたことがあるであろう ブロックチェーン技術。
毎月100以上のブロックチェーン技術関連のプロジェクトが出現し、様々な分散型アプリのアイデアや製品を提供しています。
しかし、そもそもブロックチェーン技術は本当に次世代のインフラになれるような技術なんでしょうか?
そこで編集部は、ブロックチェーン技術が誕生する前から分散型システムの研究をしていたHolochain(ホロチェーン)代表、Matthew Schutte(マシュー・シュート)氏に独占インタビューしました!
Holochainは、ブロックチェーン技術とは根本的に異なる分散型システムで、従来のアプリが作られる仕組みを大きく変化させます。
多くの人が何らかのアプリを毎日使用していますが、使用しているアプリに対して「ちょっとここが変えられたらいいのにな」なんて思う方も多いのではないでしょうか?
例えば、多数のユーザーを抱えているTwitterやInstagramは、ユーザーではなく企業によって管理されています。
そのため、ユーザーがこれらのアプリに改良を加えたくとも、それをすることが許されていません。
また、例えTwitterを超えるようなアプリを開発しても、時間がかかる上、
大企業のように資金力がなければ、ユーザーを確保するのもほとんど不可能。
そのため、現存するアプリの性能を効率よく向上させ、本当にユーザーにあったアプリを生みだすためには、何かが変わらなければなりません。
その何かを特定し、従来のアプリが作られる仕組みそのものを大きく変化させようというプロジェクトがHolochainです。
そんなHolochainの代表から聞いたブロックチェーン技術を凌駕するような近未来のエコシステムを生み出す分散型システム。
ありのままお届けします!
ーマシューさんの経歴について教えて下さい。
私は、コミュニケーションと政治理論を大学で勉強し、大学院で法律、ビジネス、情報システムについて学びました。
コンピューターサイエンスを本格的に学んだことはありませんが、大学院で情報システム関連のコースを受講し、大変興味を持ちました。
そんな中、UC Barkleyの大学院を終えた時、従来のインターネットの仕組みを改善するある「ひらめき」があったんです。
それは、従来の「コミュニティー」が形成される仕組みを抜本的に改革させるというもの。
後でこれについて詳しく説明しますが、小規模なコミュニティーが成長していく効率の良いプロセスを大規模なグループでも実現できることに気が付いたんです。
しかし、それをするためには革新的なテクノロジーが必要。
私は当時このような仕組みを考え出すことに夢中でした。
この発想をどのように実装できるかというよりかは、概念的にどのようなシステムの仕組みが必要なのかということを考えていました。
しかし、このようなビジョンはありましたが、それをどのように現実化すればいいかはわかりませんでした。
そのため、大学院後の2017-2011年にとりあえず投資(信託)会社を立ち上げ、会社を経営しながら分散型システムについて試行錯誤。
その後、どうしても情報システムに興味があったので、投資会社から離れることを決心し、すぐにアメリカのサンフランシスコに移住しました。
そこで、分散型技術に興味がある人達のコミュニティのミートアップを2013年から開始。
それからというもの、本日まで分散型技術や「コミュニティーを成長させること」に関する仕事をしています。
ちなみに、仕事を辞めた2013年以降は、大企業へのブロックチェーン技術コンサルタントとして働いていました。
Forbes 400に載るような企業へブロックチェーン業界に参入するためのノウハウを教えていましたよ。
こんなことをしながら、収入を得て、空き時間でビジネスパートナーと分散型技術に関することを研究していた中、
「metacurrency(メタカレンシー)」と呼ばれるプロジェクトに4年前遭遇。
このプロジェクトは、2007年から始動しており、Arthur Brock(アーサー・ブルック)、Eric Harris-Braun(エリック・ハリス-ブラウン)、Ferananda Ibarra(フェルナンダ・イベイラ)の三人がフルタイムで働いていました。
ここで驚いたのが、彼らが設計したシステムが、私が考案したものとほとんど同じだったこと。
それに加えて、Arthur とEricには分散型システムを作り上げるだけのスキルがありました。
そのため、私とビジネスパートナーは彼らと二つのプロジェクトを合併させようと考えたんです。
こうして生まれたのが「Holochain」なんです。
ーマシューさんが興味を持っていた「コミュニティ」の概念はどのように分散型システムに関係しているんですか?
大規模のコミュニティをどのように変えるかという概念は、インターネットをどのように変えるかという概念と同じです。
ちょっとこれについて説明しますね。
まず少人数のグループは、効率よく簡単に連動することができます。
例えば、友達グループで、
「これはやめてよ」
と言えば、それがすぐにそのグループ内での暗黙の了解になりますよね。
また友達グループが嫌になければ、そのグループから去ることを選択できます。
このように少人数グループでは、規則などなくとも効率よくグループが連動できるんです。
そもそも人間は歴史的に小規模で活動してきています。
今から10,000年くらい前は、人々は100-200人くらいの小規模で生活していたことがほとんど。
当時コミュニティが連動する方法は、「口伝えのコミュニケーション」と「信頼しあう」ということでした。
このような方法だけでも、小規模グループは簡単に連動させることができます。
しかしこのような人間関係は、大規模のグループでは機能しません。
なぜなら、グループが大きくなりすぎると少数が他のメンバーに嘘をつくなど、「信用」に関する問題が生まれるから。
そこで人々は個人間の信頼がなくとも正確にコミュニケーションができるようになる「書くこと」や「お金」を発明しましたよね。
もし、口伝えで情報を交換したら「カオス」な状態になるでしょう。
しかし、書くことによって情報の本質をかえることなく、人々に正確な情報を共有できるようになりました。
暗黙の了解ではなく、規則を紙に書いて全員で共有する。
こうすると大規模のコミュニティでも連動することが可能になりますよね。
このように口伝えから書くことが始まったコミュニケーションのシフトこそ、大規模なコミュニティが形成できるようになった大きなきっかけなんです。
とても簡略化された説明ですが、コミュニケーションテクノロジーは歴史的にこのように進んできました。
しかし、これによって新たな問題も生まれました。
それは、少数の人間に大きな力が集まってしまったこと。
軍隊や国のような大規模のグループの方針を決めるのは、どうしても中央集権型になり、少数の限られた人間がリードすることになります。
中央集権型の仕組みで効率的にグループを動かすことができるかもしれませんが、
グループ全体が「学習する」という観点から考えると、これが効率がいい仕組みだとは言い難い。
実際にも、大企業はイノベーションに追い付けてないケースが多いですよね。
その理由は、組織の方針を決めるのが、すべてを把握できない少数の人間に限られるから。
これにより、組織に属する大多数の知識や意見が、組織全体の方針に反映されなくなります。
せっかく大勢の「学習能力」がリソースとしてあるのに、それらを試す機会すらありません。
もし、あるグループが一つのことをやり、ほかのグループはまた違うことするなどし、
学習を「分散化」できないでしょうか?
大規模のグループに存在する多数の小規模グループが同時に学習すれば、効率がいいと思いませんか?
そこで私は、
「中央集権型の機関なしで、人々が自由に方向性を決められるシステムを作れないか?」
ということを考えました。
これを実現させるのが、Holochainです。これは、ブロックチェーンが目指しているものとは大きく異なるものなんです。
ーブロックチェーン技術とHolochainの分散型システムはどのように異なりますか?
最新テクノロジーを超えるようなものを作るには、考案者よりもよくその技術について理解する必要があります。
そもそもブロックチェーン技術がどんな技術かということから考えてみましょう。
ブロックチェーンは何から生まれたでしょうか?
もちろんビットコインからです。サトシ・ナカモトが誰かはわかりませんが、現在ある情報で確かなことは、
彼が「Cypher Punk(サイファーパンク)」というインターネット上のコミュニティで活動していたということ。
(*Cypher Punkとは、暗号技術を使って従来の社会や政府の仕組み変えようとする人達のこと。)
彼らは、80、90年代に主に活動しており、あることを実現させようとしていました。
それは、「政府のような第三者に仲介されることなく匿名でコミュニケーションを取る方法を見つける」ということ。
またCypher Punk達は、「もし政府がコミュニティーに潜入した場合、匿名を保てるか?」という問題も解決しようとしていました。
言い換えると、コミュニティのメンバーたちがお互いを知らずにどのようにコミュニケーションが取れるかということです。
彼らの目標は、「政府のような仲介者からの威圧から逃れることで自由を得る」ということでした。
そのため、匿名の取引がとても意識されたんです。
このような思想のもと生み出されたのが、匿名なデジタル通貨である「ビットコイン」。
(もちろん、ビットコインの匿名性には限度がありますが…)
「取引で相手のことを知らずに、相手を信用するにはどうしたらいいか?」
という問題に対し、ビットコインの解決策は、
「コミュニティの全員がコミュニティで行われるすべての取引履歴を閲覧できるようにする」
ということでした。
しかし、この方法だと全員がこの膨大なデータを所有することになりますね。
これは大きな問題です。
そこで、ビットコインは「マイナー」という役割を作ることにしました。
マイニングといわれる、要するに「特別なゲーム」をすることによって報酬を得るような仕組みを採用したのです。
しかし、このゲームは特定一部の人間しか参加できません。
言い換えると、コミュニティの中で「エリート」を作ってしまったということ。
これによって、マイナーと一般ユーザの差は広がるばかり。
もともと「中央集権型の機関がいない仕組み」をデザインしようとしたのにも関わらず、
偶然にもそれを作ってしまいました。(笑)
ビットコインは君主制ではないですが、「oligarchy(寡頭制)」であることは間違いないです。
コミュニティ内で取引をするには、政府のような従来の中央集権型機関を通さなくとも、マイナーのような仲介者を通さなければなりません。
もう少しこのことについて考えてみましょう。
人々の取引はマイナーによって記録されますよね。
実は、これがブロックチェーン技術のとても重要な概念。
ブロックチェーンの何が革命かというと、「出来事が起こった順番」において、1つの事実を作り出そうとしていたことです。
マイナーは、それぞれ好きなようにブロック生成を試み、それぞれが違う順番で取引をブロック化します。
そんなマイナーたちが、1つの正しい取引経歴を共有するために、ビットコインブロックチェーンは使われます。
言い換えると、「出来事の観点を統一化する」ということ。
これが俗にいわれる、「Global Consensu (グローバルコンセンサス)」というやつです。
このことから、ブロックチェーン技術はいくら分散型システムとはいえ、本質的には中央集権型のシステムなのです。
なんだかおもしろくないですか?
いつも「分散型」って言っているのに、実は違うなんて。
ちなみにブロックチェーン技術が「拡張性の問題」を抱えているのは、
そもそも中央集権型で「一つの真実決める」システムだから。
このような仕組みは、確実に「ボトルネック」を作り出します。
(*ここでのボトルネックとは、システム設計上処理能力が遅かったり、容量が少ないこと)
実際にも、ビットコインは10分に1度「しか」ブロック生成をすることができません。
これがブロックチェーン技術の事実。
ブロックチェーン技術は、確かに相手のことを全く知らずとも、取引相手を信用しないで、取引を行うことを可能にしました。
しかし、私たちHolochainは、ビットコインが解決した問題よりも大きな問題を解決しようとしています。
さて、それではHocochainについて語りましょうか。
ーHolochainにはどのようなビジョンがあるのですか?
ブロックチェーン技術は、「誰かからの制約から自由になる」ということに焦点を当てていると話しました。
Holochainには少し違うビジョンがあります。
それは「各々が好きなように自分を制約できる」ということ。
各々が自分の好きなルールを選び従うことができ、誰かに強制されることなく自分自身でルールを作ることができます。
言ってみれば「自分で好きなように自分を制約できる自由」です。
ーもうちょっと簡単に説明していただけますか?
もちろんです。(笑)
トランプをやったことありますか?
ーあります。
大勢の友達とやったことありますか?
ーはい。
トランプをするために「レフリー」を雇いましたか?
ーいいえ。(笑)
なんでですか?(笑)
ーえーと、誰かがちゃんとルールを知っているからです。
もし誰かが、ずるをしたり、間違ったりしたらどうしますか?
例えば、自分の番じゃないのにカードを引いちゃったりとか?
ー誰かがルールをそれに気づいて指摘したり、ルールを教えられます。
その通り。もしルールに沿っていない行為が確認された場合、「それだめだよ」といって、間違いを正せますよね。
ここでは2つのことを同時にやっています。
それは、
・間違いを指摘する
・トランプをやっている人全員にルール違反について知らせる
ということ。
また、もしわざと間違いを続けたら、
「この遊びから外すよ」
と言えます。
このように、友達間でトランプで遊ぶ際に、レフリーのような仲介者を雇わなくとも、簡単に全員がルールに従えます。
もしルールに従わない人がいた場合、その人を追い出せばいいだけ。
ちなみに、個人的にはこのようなグループの連動を「Immune Response(免疫反応)」と呼んでいます。
なぜなら、私たちの人体が外部からの脅威に反応するのに似ているから。
私たちの免疫には、外部からの脅威をすべて決めるような中央集権型な細胞はありません。
「CEO細胞」なんて存在しませんよね。(笑)
免疫は、分散型システムなんです。各々の細胞は、同一のDNAを持っています。
いわゆるこれが、「規則」です。
例えば、もし一つの細胞が感染した場合、以下の2つのことが行われます
まず、「脅威に対抗する」こと。
そして、ほかの細胞に「それを知らせる」こと。
「ヘイ、ここに問題があるよ」っていう感じですね。笑
ほかの細胞はそれに気が付き、脅威への処置が行われ、他の細胞に十分に知れ渡るまで続きます。
このような免疫反応では、「各々」の細胞が、状況を「各々の観点」から察知し、そして「各々で判断」した上で行動をおこし、ほかの細胞と「情報共有」します。
これは、非常に適応性の高い仕組みなんですよ。
このようにデータを保管する仕組みは、
「Holographic storage(ホログラフィックストーレージ)」といわれ、Holochainが採用している技術です。
私たちは、これが自然で様々なグループが連動するパターンだと信じています。
ちなみに、「言語」や「文化」はホログラフィックストーレージを使用しています。
言語は辞典に保存されているわけではなく、それぞれの人の脳にありますよね。
これが、言語が適応性に優れている理由です。
新しい言葉がどんどん生まれ、人々はその言葉を使うか・使わないかの選択ができます。
文化も同じです。文化は、人々がどのように行動するべき・しないべきかというもので、それぞれの人の脳に存在します。
もし、ある風習に反対する人は新しいことを試し、それに賛同する人々が続きますよね。
こうして社会全体が成長していきます。
ホログラフィックストーレージは、私たちが文化や言語を形成する自然が生み出した仕組み。
しかしホログラフィックストーレージをデジタルデータのために使われたり、 この方法で大規模のグループが連動したことはありません。
なぜなら、それらをするための手段がなかったから。
だからHolochainは、世界中の人々が連動する手段を提供しようと考えています。
Holochainによって、政府やマイナーや企業のような機関なしで、自分でルールを決めたり、従ったり、やめたりできるようになるでしょう。
さて、前置きはこれくらいにしてそろそろHolochainの本題へ行きましょうか。
Part1はここまで!
Part2ではHolochainでどのようなアプリを開発できるかなど詳しくご紹介しています。
近日中のリリースを予定していますので、お楽しみに!